内臓肥満に高血圧、高血糖、血中脂質異常等の症候が同時に重なったメタボリックシンドロームは、循環器疾患等の発症につながることが知られており、世界的にも有病率が高い。一方、職場における仕事の量的負担の多さ、裁量権の低さ、上司や同僚からの支援の低さ、交代制勤務および長時間労働等、好ましくない職場の心理社会的要因が、メタボリックシンドロームを構成する高血圧や肥満等の発症に影響することも知られている。しかし、リスク要因となる心理社会的要因を網羅し、その関連の程度を明らかにした研究はこれまでなかった。
北里大学などの研究グループは、両者の関連を明らかにするため、これらを検討した研究論文のうち、前向きな研究デザインを採用した質の高い研究を系統的に収集し、メタ分析を行った。その結果、職場における好ましくない心理社会的要因に曝されている労働者のメタボリックシンドローム発症リスクは、そうでない労働者に比べて1.4倍に高まることが見積もられた。心理社会的な要因の中では、仕事の量的な負担が高いことと裁量権が低いことの組み合わせである仕事のストレインと交代制勤務が比較的多く研究されており、メタボリックシンドローム発症との関連も頑健であることが分かった。
本研究は、これまで個別に検討されてきた様々な心理社会的要因とメタボリックシンドロームの発症との関連を世界で初めて網羅的に調べ、広範な職場の心理社会的要因がリスク要因であることを明らかにしたものである。本研究成果により、職場の心理社会的要因が労働者の循環器疾患発症を引き起こす生物学的な機序についての研究が進むことが期待される。