福岡歯科大学の大谷崇仁助教および九州大学の松田美穂准教授らの研究グループは、骨中のあるタンパク質の糖・脂質代謝に対する影響を検証し、そのタンパク質を高濃度にすると脂肪細胞の一部が細胞死することを発見した。「肥満」に対する新たな薬理学的アプローチとなる可能性がある。
骨には全身の糖・脂質代謝を活性化する内分泌機能があることが、最近の研究で分かっている。この機能を担うのが骨中のオステオカルシン(OC)というタンパク質だ。OCのうちホルモンとしての機能を持つものを GluOCと呼ぶ。
研究グループはこれまで、GluOCの糖・脂質代謝に対する影響の解析・検証を行ってきた。その結果、低濃度のGluOCは脂肪細胞において糖・脂質代謝活性化ホルモンである「アディポネクチン」の発現を亢進させる効果があることが判明。その発現に至るまでのシグナル経路を明らかにしてきた。
この研究の過程で、GluOCを高濃度にすると、逆にアディポネクチンの分泌量が見かけ上低下し、そのとき約3割の脂肪細胞が細胞死することが分かった。この細胞死が誘発されるシグナル経路の解析により、GluOCが作用する脂肪細胞自体はアディポネクチンの発現が亢進し、代謝に有利な性質を獲得するが、同時に細胞膜上に細胞死を導く因子の発現を亢進させ、隣接した脂肪細胞の細胞死を誘導することを発見した。つまり、GluOCは脂肪細胞すべてを細胞死させるのではなく、間引きするようにその細胞数を減少させ、生き残った多くの脂肪細胞は代謝活性の高い性質になることが分かった。
今回の研究成果は、社会問題となっているメタボリックシンドロームの根源である「肥満」に対する新たな薬理学的アプローチとなることが期待される。