順天堂大学大学院の冨田洋之准教授らの共同研究グループは磁気共鳴画像(MRI)による脳ネットワークの解析により、世界クラスの日本人体操競技選手に特徴的な脳ネットワーク構造があることを明らかにした。選手の種目適性やトレーニング効果の客観的評価に役立つことが期待される。
近年、一流のアスリートの鋭敏な感覚、精密な運動制御能力、的確な状況判断を行う意思決定能力、強い意欲などの優れた脳機能が注目されている。これらの脳機能は長期の集中的な運動トレーニングによって得られた神経可塑性(脳が学習する仕組み)に基づくとされる。
今回の研究では、世界大会で入賞歴のある現役日本人体操競技選手10名と体操競技経験がない健常者10名の男性を対象とした。最新のMRIによる脳の拡散強調像を撮像し、脳のネットワーク解析法を用いて、両者の脳の構造的な接続を比較。また、競技成績と脳の構造的な接続性との関連を解析した。
その結果、体操競技選手は感覚・運動・注意・情動など競技に密接な関わりのある機能を司る脳領域間の神経接続が強化されていた。さらに一部の神経接続が競技成績と相関していた。床運動は「空間認識、平衡・姿勢感覚、運動学習」に、平行棒は「視覚運動知覚、手の知覚を含む感覚運動」に、鉄棒のDスコア(技の難度)は「視空間認識、エピソード記憶、意識、視野内の物体認識」に関連するそれぞれの脳領域を結ぶ神経接続と有意な正相関が見られた。
今回の成果により、特定の機能を司る脳部位を結ぶ神経接続の強さが体操競技に重要であることが分かった。また、本研究手法が、体操競技選手の種目適性やトレーニング効果の客観的評価に役立つ可能性があるとしている。