東京大学大学院の楊鯤昊大学院生、植田一博教授らの研究チームは、創作活動において専門知識の少ない人の方が優れたパフォーマンスを示す理由について実験結果を分析。専門知識の量が注意配分パターンにネガティブな影響を与えることを明らかにした。
専門知識が少ない人の方が優れたパフォーマンスを示すという現象が、多くの先行研究で報告されている。実際の製品開発でも、豊富な専門知識をもつ企業や研究所の開発者ではなく、一般ユーザの方が新しいアイデアを生み出す事例が見られるが、その理由は不明だった。
今回、ステレオ、PCなどのスピーカーの新機能に関するアイデアについて、オンライン実験のデータとAmazon.com上の商品レビューデータを分析。創作活動参加者のスピーカーに関する専門知識の量、本人所有のスピーカーを写真に撮る際の注意配分パターン※、そしてスピーカーに関する新しいアイデアの質を測定し、三者の関係を分析した。
その結果、専門知識の多い人は注意をスピーカーに集中し、スピーカーをアップで大きく写す傾向があった。この傾向は「集中的な注意配分パターン」と呼ばれ、アイデアの質にネガティブな影響を与えることが分かった。一方、専門知識の少ない人は注意を周囲の環境に分散し、スピーカーを引いて小さく写す傾向があった。この傾向は「分散的な注意配分パターン」と呼ばれ、アイデアの質にポジティブな影響を与えることが明らかになった。
今回の研究成果は、実社会でのイノベーション活動に新たな知見を提供するとしている。今後は、注意配分パターンと創造性との関係に関して検討を進め、ユーザ・イノベーションが生じる仕組みの全容を解明することが期待される。
※対象に対する注意の配分の仕方で、集中・分散の2典型があるとされる