上高地のニホンザルが厳冬期に水生昆虫や魚類を捕食し、河川に生息する水生生物を餌資源として依存していることが明らかとなった。信州大学、筑波大学、ニュージーランド・コースロン研究所らの共同成果。このような独特な越冬戦略は、猿類では世界で初めての報告となる。
ニホンザルはもともと猿類(人類以外の霊長類)の中で最も寒い地域に生息する種であるが、中でも上高地のニホンザルは、世界最寒地に暮らす集団である。信州大学のグループは以前から、上高地のニホンザルが厳冬期に「川干し」と呼ばれるような、水生昆虫を採取するような行動を度々とることを観察してきた。
「川干し」は世界では類を見ない行動であることから、今回、上高地のニホンザルの厳冬期の食性を解明するために、糞サンプルのメタゲノム解析により餌資源由来のDNAを網羅的に調べた。その結果、サケ科魚類や水生昆虫類(カワゲラ類やガガンボ類の幼虫)、甲殻類、巻貝類のDNAが検出され、一部には陸域由来と考えられる動物も含まれていたが、多くは淡水域に生息する水生動物が、実際に上高地のニホンザルの餌資源となっていることが明らかになった。
この特徴は、複数の冬季シーズンにわたり採取されたサンプルから安定して確認されたことから、上高地のニホンザルは水生昆虫や魚類を餌資源としてコンスタントに利用している可能性が高いとしている。厳冬季における栄養源として、河川に生息する動物に依存しているニホンザルの実態が科学的に立証されたのは初めて。また、魚類の捕食は猿類でも世界初となる驚くべき報告だ。
ただし、現場でのサケ科魚類の捕獲シーン観察はできていないため、本グループの今後の課題だとしている。