Virology: Omicron’s altered infectivity and immune escape
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)オミクロン変異株のスパイクタンパク質に生じた変異によって、このウイルスが細胞に感染する過程が変化し、治療用抗体やワクチン誘導抗体に対する感受性が低下したことが明らかになった。また、mRNAワクチンのブースター接種をすれば、ウイルスを中和する活性が強くなり、抗ウイルス薬(レムデシビルとモルヌピラビル)は、オミクロン株に対する効力を保持していることも判明した。こうした研究知見を報告する論文が、Nature に掲載される。
SARS-CoV-2が宿主細胞へ侵入する際に手助けをするのがスパイクタンパク質であり、オミクロン株のスパイクタンパク質には約36の変異がある。今回、Ravindra Guptaたちは、ウイルスが宿主の受容体(ACE2)に結合する過程に影響を及ぼす可能性のある変化を特定した。また、Guptaたちは、オミクロン変異株の感染力について、これまでのデルタ変異株と比べて、いくつかの種類の細胞における感染力が低下し、例えば、気道オルガノイドと腸細胞における複製が抑制されたことも明らかにした。さらに、Guptaたちは、細胞膜タンパク質の一種であるII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)へのオミクロン株の依存性が低下したことも示した。これまでの変異株は、細胞に効率的に感染するためにTMPRSS2を必要としていた。今回の研究で得られたデータは、オミクロン変異株のスパイクタンパク質に生じた変異によって、TMPRSS2を発現する下気道細胞(例えば、肺胞の細胞)の効率的な感染が抑制されるが、TMPRSS2を発現しない細胞(例えば、上気道に見られる細胞)の効率的な感染は抑制されないことを示している。
Guptaたちは、オミクロン株が既存の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療法にどのように応答するかを解明するために、生ウイルス粒子と偽ウイルス粒子の両方を臨床で認められた抗体と培養して、抗体とオミクロン株のスパイクタンパク質との間の相互作用を解析した。カシリビマブとイムデビマブは、併用するとデルタ株の中和に特に有効なことが示されているが、Guptaたちは、この2種類の薬剤のいずれか一方を使用した場合も併用した場合もオミクロン株に対する中和活性がすべて失われていることを明らかにし、抗ウイルス薬のレムデシビルとモルヌピラビルは、デルタ株とオミクロン株に対して同程度の活性を有することを明らかにした。
そして、Guptaたちは、オミクロン株に対する既存のワクチンの有効性を評価するために、オミクロン株またはデルタ株由来のスパイクタンパク質を発現するウイルス粒子を作製し、ファイザー–ビオンテック社製ワクチンとオックスフォード–アストラゼネカ社製ワクチンのいずれかを接種した被験者から採取した血清を上記ウイルス粒子に曝露した。その結果、いずれかのワクチンを2回接種した後、オミクロン株を中和する作用が、デルタ株の場合の10分の1以上低かったことが観察され、2回目の接種から時間を追うごとに応答がさらに弱まった。また、オックスフォード–アストラゼネカ社製ワクチンを2回接種した被験者の大半で、オミクロン株の中和は検出されなかった。さらにファイザー–ビオンテック社製ワクチンによる3回目のブースター接種を受けた上述の被験者群の人々から採取された血清を調べたところ、中和作用が増進したことが明らかになった。生ウイルスを用いた実験では、ファイザー–ビオンテック社製ワクチンの2回接種で同様の結果が観察された。
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「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
※この記事は「Nature Japan 注目のハイライト」から転載しています。
転載元:「ウイルス学:オミクロン株に生じた感染力の変化と免疫回避」