Cancer: Mental health and suicide risk among adults with cancer examined

 
精神疾患と診断されたがん患者は、他のがん患者に比べて死亡率が高く、自傷のリスクも大きいことを報告する論文が、Nature Medicine に掲載される。また、別の論文によれば、がん患者は一般の集団に比べて自殺のリスクがほぼ2倍に上ることが分かったという。これらの知見は、これまでで最大規模の集団で、主ながんの成人患者における精神疾患の罹患率と自傷行為の発生率を解析した結果に基づいている。

この数十年間で、がんの治療法は進歩し、予後も改善したが、がん患者の自殺リスクは依然として高い状態にある。しかし、がんの場合にメンタルヘルスが自殺や生存転帰にどのように影響するかは、いまだに分かっていない。その原因としては、こういった影響を実証するのに十分な標本サイズでの研究が行われていないことが大きい。

今回、Alvina LaiとWai Hoong Changは、約23年間にわたる2つの大規模な電子カルテデータベースから得た集団ベースのデータを解析して、26種類のがんについて精神疾患と自傷行為の症例を調べた(年齢18歳以上の45万9542人中)。その結果、がん患者で最も多く見られる精神疾患はうつであり、精神疾患の累積罹患率が最も高いのは、化学療法、放射線療法、外科手術、アルキル化剤投与(ある種のがんの治療に使われる)を受けている場合と、精巣がんの場合であることが分かった。また、精神疾患(うつ、不安障害、統合失調症、双極性障害、パーソナリティー障害など)に関連して、精神疾患診断後12か月以内のあらゆる種類の死亡リスクが増加し、自傷リスクも増加した。

また、別の研究では、Corinna Seligerたちが、4600万人以上の患者を含む62の研究を系統的に検証してメタ解析を行い、がん患者の自殺率を割り出した。その結果、これらの患者は一般の集団に比べて、自殺によって死亡するリスクが2倍近く高く、特に肝臓がん、胃がん、頭部がんなど予後不良とされるがんの患者では、自殺による死亡は3.5倍に上ることが分かった。

これらの知見から情報を得て、最も自殺リスクの高い患者を判定し、自殺願望の兆候を早期に見つけ、自殺の短期的・長期的リスクを下げる方法をとることで、がん医療と精神科医療を協調させる試みに役立つ可能性がある。

doi:10.1038/s41591-022-01740-3
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「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

 
※この記事は「Nature Japan 注目のハイライト」から転載しています。
転載元:「がん:成人がん患者のメンタルヘルスと自殺リスクを調査

Nature Japan

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