静岡大学の安藤瑠称氏(修士課程)と板口典弘助教(現・慶應義塾大学)は、実験により腕が重くなると、直感に反して腕の運動軌道が高くなることを明らかにし、これが義手の使いにくさや疲労の原因となる可能性を指摘した。
義手は近年開発が進んでいるが、その重さから使用を中断する例が少なくない。しかし、義手の重さが使用者の運動に与える影響は明らかではない。研究グループは今回、腕の重さが変化すると運動軌道がどのように調整されるのかを検討した。
実験では、参加者が机の上で手を伸ばす運動(到達運動)と、手を伸ばして物をつかむ運動(到達把持運動)を実施。10試行ごとに腕に巻いたおもりを0g、100g、200gの重さに切り替えた。
その結果、両方の運動で、腕の重さが変化した直後の1試行目には、重い条件よりも軽い条件で運動軌道が顕著に高くなった。これは直前の腕の重さの後効果であり、参加者は直前の試行での腕の状態に基づいて筋出力したと考えられるという。
また、到達把持運動では、200g条件で9、10試行目での手首の最大高さが他の条件より高くなった。参加者は腕が重い状態では高い運動軌道を選択し、到達把持運動を確実に成功させたとみられるが、到達運動では認めなかった。これは、要求精度が低い到達運動では、腕の重さが運動軌道に及ぼす影響が小さかったと考えられた。
運動軌道が高くなると筋出力が大きくなるため、前腕の重量が変化する義手使用でも違和感や疲労が生じる可能性がある。今回の成果は、ヒトの運動制御メカニズムの解明に加え、使い易い義手開発や疲労時の事故防止など、人間の運動行動に関わる幅広い医療・産業技術の発展への貢献が期待される。