東京大学の研究グループは、米国の猫に流行し人にも偶発的に感染したH7N2ネコインフルエンザウイルスが、わずかな変異でヒト呼吸器細胞での増殖性が高まることを明らかにした。新たなパンデミックの引き金になる潜在性があるとしている。
2016~2017年、米国・ニューヨークのシェルターネコ500匹以上がA/H7N2低病原性鳥インフルエンザウイルス由来のH7N2ネコインフルエンザウイルスに感染、呼吸器疾患を生じた。獣医師を含む2名にも感染し軽い呼吸器症状がみられた。新たなパンデミックウイルスの出現が危惧されたが、その後収束。研究グループは今回、ヒト呼吸器でのこのネコウイルスの高効率な増殖に必要な変異を調べた。
ウイルスをヒト呼吸器培養細胞で連続継代すると、ウイルス表面の糖タンパク質HA(赤血球凝集素)のレセプター結合性を担うヘッド領域および膜融合活性を担うストーク領域に変異を認めた。一方、ウイルスの細胞からの遊離を担うNA(ノイラミニダーゼ)の膜貫通領域にも変異が生じた。
次に、リバースジェネティクス法で各変異ウイルスを作出し調べたところ、HAヘッド、HAストーク、NA膜貫通の各領域に別々に変異を導入した各組換えウイルスに、程度の差はあるが増殖性の向上を認めた。各変異ウイルスの増殖性向上のメカニズムを検索した結果、HA膜融合活性のpH要求性とHA-NA機能バランス(ウイルスの増殖性や細胞・宿主特異性の制御因子)をヒト呼吸器細胞のレセプター環境に適合させる変異が、その増殖性の獲得に重要であると判明した。
今回同定されたこれらの変異は、パンデミックのサーベイランス予測を担うウイルスモニタリングに高く貢献することが期待されるとしている。
論文情報:【Viruses】Adaptation of the H7N2 Feline Influenza Virus to Human Respiratory Cell Culture