近畿大学の平出敦教授はアメリカのハーバード大学と共同で、日本の都道府県ごとの医療費と心肺停止患者の生存率の関係を調べました。こうした調査はこれまであまり行われてきませんでしたが、今回の研究から一人あたりの医療費が少ない都道府県では心肺停止患者が1カ月後に生存する確率が低くなることを明らかにしました。
日本では都道府県によって一人あたりにかけられている医療費がばらついていることが問題となっています。しかし、これまではそのばらつきがどの程度医療の質に影響しているのかはほとんど分かっていませんでした。現在、都道府県ごとに医療費の目標値を設定することが検討されていますが、医療費が少ない地域にかけるお金を増やしても効果があるのかどうかすらわからないのが現状でした。
今回の研究では2005年から2011年の間に日本国内で救急搬送された心肺停止の全患者約60万人のデータを解析し、1カ月生存率などを基に医療の質を比較しました。その結果、一人あたりの医療費が低い都道府県では、中程度以上の都道府県と比べて1カ月生存率が有意に低くなっていることが認められました。また中程度と高い都道府県では、あまり差が見られませんでした。
これらの結果は心肺停止患者のデータを基にしたものであり、一つの指標でしかありませんが、医療費の抑制のみを目的にして政策を進めていくと国民の健康状態の悪化につながるリスクがあることが示唆されました。一方で医療費が中程度の都道府県では医療費を効率よく抑制することができている可能性があることから、質を落とさず医療費を抑えるモデルケースになると期待できます。多くの都道府県で高い質を維持したまま医療費を抑制する政策につながるかもしれません。
出典:【ニュースリリースポータル】医療費と心肺停止患者の生存率の関わりを初解明