慶應義塾大学理工学部の藤原慶専任講師と土居信英教授らの研究グループは、微生物を模倣した人工細胞が、微生物が行う発酵生産のように持続的に化合物を変換可能であることを実証した。
お酒や納豆などの発酵食品は、微生物が持つ酵素によって作られる。近年、この発酵生産技術を拡張し、微生物が持つ酵素の種類を変えることで医薬品やバイオ燃料を合成しようとする試みが盛んになってきている。
今回、同研究グループは、脂質二重膜小胞(人工細胞)を用いて、少ない量の酵素でも効率的に化学変換が可能であることを示した。同グループはさらに、納豆菌由来の酵素、テキーラ醸造菌の酵素、パン酵母の酵素を組み合わせたもので、乳酸からエタノールの合成に成功した。また、人工細胞を微生物に似た形状に変形させることにより、特定の条件下では酵素のみと比較して12倍もの合成効率の向上にも成功した。
今回の研究では、実用ではなく実証を目的としているため、乳酸をエタノールに変換するという自然界には起こらない化学変換を材料としているが、人工細胞は、従来の微生物や酵素を用いた手法では実現が困難な有用な化合物の合成に応用されることが期待されている。エタノールは酒の主成分であり1%を超えると酒類として認定されることから、人工細胞を用いて酒を造れる時代の到来も期待される。