慶應義塾大学の佐藤俊朗准教授らの研究グループは、ヒトの正常な大腸粘膜から培養した組織幹細胞をマウス腸管内へ移植後、マウス生体内で生着させ、ヒト正常大腸上皮細胞動態を長期間にわたって観察することに、世界で初めて成功した。
研究グループはこれまでに、ヒト大腸粘膜の再生を制御する幹細胞の体外培養(オルガノイド培養)に成功し、また、マウス生体内でがんを再構築する技術を開発してきた。しかし、ヒト成体の正常大腸幹細胞をマウスへ移植する技術は存在せず、腸疾患や大腸がんの病態理解や治療の開発への研究手法が制限されていた。
研究グループは、オルガノイド培養技術にゲノム編集技術を応用することで、緑色蛍光タンパク質(GFP)を組み込んだ遺伝子改変オルガノイドを作製。このGFP発光するオルガノイドをマウスの腸管内に移植することで、生着成功の確認をマウス内視鏡システムを用いて行うことが可能となった。
また、マウス大腸の上皮粘膜を剥離させる技術により、同部位に作成した遺伝子改変オルガノイドを長期(10か月以上)にわたり生着させ、ヒトの大腸上皮構造をマウスの腸管内で再構築することに成功。さらに、特定細胞の生体内での動態を観察する技術を開発した。これにより、マウス生体内でヒト大腸上皮幹細胞を生きたまま観察することに成功し、マウスでの実験結果から存在すると推測されていた生体内でのヒト正常大腸幹細胞を実証した。
今回の研究は、ヒトの大腸疾患細胞を研究する新しい手段となり、今後の潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や大腸がんの根治を目指した正常幹細胞機能の解明と、新規治療法開発へつながることが期待される。
論文情報:【Cell Stem Cell】Reconstruction of the Human Colon Epithelium In Vivo