化学および生物系研究においてプラスチックはピペットやチューブ、培養皿など使い捨てで頻用されており、研究者1人あたりの年間のプラスチック廃棄物は約数十kgに達するとも推定されている。しかし、これら使い捨てプラスチックを削減する取り組みはこれまでほとんど進んでいないという。
今回、慶應義塾大学の研究グループは、容器を使わずに空中で実験が可能な音響浮揚現象を利用した浮揚液滴での細胞トランスフェクション(遺伝子導入)を行い、導入遺伝子の細胞取り込みや発現効率が試験管内で操作した場合よりも大幅に高くなることを明らかにした。
超音波の定在波を利用して空気中に浮揚させた培養液中で細胞トランスフェクションを行うことができれば、容器が不要になるため、研究現場におけるプラスチック廃棄物の削減に役立つと期待される。そこで本研究では、浮揚させた培養液中で動物細胞へプラスミドDNA(pDNA)のトランスフェクションを行い、その遺伝子導入効果を検証した。空気中で細胞を含む培地を長時間浮かせていると水分が蒸発していくため、液滴の体積をリアルタイムで監視し、減少した水分量を継続的に追加しながら浮揚状態を維持してトランスフェクションを4時間行った。
その結果、導入遺伝子の発現は試験管内で静置した細胞と比較して3倍以上の有意な増加を示した。また、pDNAの取り込み量も静置した試験管と比較して3倍高かった。これは、浮揚によって細胞特性が変化し、エンドサイトーシス経路の統合が起きたために、トランスフェクション効率が向上した可能性があるとしており、超音波浮揚が効果的な遺伝子導入条件であることが示唆された。
以上から、本技術は、プラスチック廃棄物を削減するだけでなく、革新的な実験条件となる可能性も秘めており、細胞工学において新たな実験手順を提供することにつながると期待される。