埼玉大学大学院の萩原拓真大学院生らの研究グループは、基礎生物学研究所と共同で、オジギソウの運動を引き起こす長距離・高速シグナルを可視化し、この葉の動きが草食性昆虫から身を守る役割があることを明らかにした。
植物には神経や筋肉はないが、オジギソウは接触や傷害などの刺激を感じて葉枕(ようちん)と呼ばれる運動器官を屈曲させて次々と葉を動かす。この高速運動を引き起こす長距離シグナル分子の正体や高速運動の生理学的役割は長い間不明だった。
研究グループはカルシウム(Ca2+)の蛍光バイオセンサー遺伝子を組み込んだ「光る」オジギソウを作出し、オジギソウが傷害時に発生させるCa2+シグナルの可視化に成功した。葉をハサミで傷つけると、傷つけられた部位からCa2+・電気シグナルが発生し、このシグナルが運動器官である葉枕に到達すると、わずか0.1秒後に葉の運動が起こることが分かった。
また、薬理学的手法やゲノム編集技術を用いて「おじぎをしない」オジギソウを作出。バッタなどの草食性昆虫を用いた食害実験で、昆虫は葉を動かさないオジギソウをより多く食べた。さらに、通常のオジギソウの葉をバッタにかじらせるとCa2+シグナルの伝達と連動して葉が次々と閉じて、バッタは摂食を止め他の場所に移動していった。
これにより研究グループは、オジギソウの虫害防御高速運動モデルを提唱。①オジギソウの葉が虫害を受ける、②Ca2+・電気シグナルが全身に伝達する、③葉枕細胞でCa2+濃度が上昇する、④葉の高速運動が発生する、そして⑤虫害が防御される、というモデルだ。オジギソウはこの虫害防御高速運動により動かない他の植物よりも食べられにくいとしている。