名古屋大学の高橋洋平特任准教授と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のジュリアン シュローダー教授らは、2種類の遺伝子にコードされるプロテインキナーゼが互いに結合・解離することで、植物が二酸化炭素(CO2)濃度の変化を感知していることを世界で初めて明らかにした。
植物は、葉の表面の気孔を通して大気中から二酸化炭素(CO2)を取り込み、光合成を行う。このとき気孔を開口するため水分の大気中への流出も促進されるが、CO2濃度が高い環境では気孔を閉鎖する。このため、植物にはCO2の濃度変化を感知して気孔の開き具合を調節し、CO2の獲得に伴う水分損失の割合を制御する仕組みがあるとされるが、植物の「CO2センサー」の実体やCO2濃度変化の感知機構は不明だった。
研究グループは、プロテインキナーゼ(蛋白質リン酸化酵素※)のうち、MAPキナーゼファミリーに分類されるMPK4/12と、Raf-like MAP3キナーゼファミリーに分類されるHT1という2つのキナーゼに着目した。モデル植物シロイヌナズナを用いた解析により、高濃度 CO2 環境では、MPK41/2とHT1が結合することにより気孔を閉鎖させて水分を保持し、低濃度CO2環境では解離することにより、下流のプロテインキナーゼCBC1を活性化させて気孔を開口し、CO2吸収を効率化することが分かった。すなわち、気孔開閉はCO2 センサーMPK4/12-HT1複合体がCO2 濃度環境に応じて結合・解離して生じていた。
今回の研究成果は、長らく不明だった植物のCO2センサーを同定し、その作用機構を解明したもので、植物の水利用効率(光合成で固定するCO2量と蒸散で失う水の量の比)や大気CO2吸収の増進に向けた将来の新技術開発の起点としても期待されるとしている。
※蛋白質にリン酸基を付加することで、その蛋白質の活性や局在、相互作用などを調節する酵素。