京都大学のグループの研究で、血液細胞の進化的起源が貪食細胞(マクロファージ)であること、加えて、その遺伝学的特徴がまだ単細胞生物であったころから継承されていることがわかった。
ヒトなどの脊椎動物は、赤血球、血小板、マクロファージ、リンパ球といった多様な血液細胞を持つ一方で、無脊椎動物やその他の生物種にも広く共通して存在するのは、貪食細胞のマクロファージに限られている。このことから、多様な血液細胞は、マクロファージを起源として進化してきたと推測されてきた。
しかし、この仮説を証する遺伝学的な根拠は乏しかったことから、今回、マウスから単細胞生物にまでわたる広範な生物種の遺伝子発現状態を包括的に比較し、血液細胞の起源がマクロファージであるかどうかを検証した。
まず、マウス、ホヤ、カイメン、カプサスポラ(単細胞生物)の4生物種間で相同遺伝子群の発現状態を比較したところ、マウス、ホヤ、カイメンの貪食細胞とカプサスポラにおける発現状態が互いに類似していることを突き止めた。さらに、この類似性を規定する遺伝子を検索した結果、貪食細胞とカプサスポラの両者に共通して転写因子CEBPαの高発現を認めた。
CEBPαの機能を調べるため、マウス、ホヤ、カイメン、カプサスポラのCEBPαをマウスのB細胞や巨核球の前駆細胞に発現させたところ、いずれもマクロファージに転換したという。このことは、マクロファージへの転換プログラムを誘導するCEBPαの機能が、単細胞生物の時代から脊椎動物に至るまで保存されてきたことを示している。
脊椎動物においては、ポリコームがCEBPαを抑制しているために多様な血液細胞が存在できることもわかった。マウスの血液細胞でポリコームを欠失させると、CEBPαの発現が上昇して各細胞はマクロファージに転換してしまい、あたかも進化的に巻き戻って、原始の動物の血液のようなマクロファージのみの状態となった。また、これで生じたマクロファージは、正常な細胞よりもカプサスポラ(単細胞生物)に似ており、白血病様でもあったという。
これらの結果から、マクロファージは原始的な細胞かつ、全ての血液細胞の原型であることが明らかになったとしており、本成果は、血液細胞の進化の理解を深めるとともに、血液疾患の研究への応用も期待される。
論文情報:【Blood】Tracing the evolutionary history of blood cells to the unicellular ancestor of animals