森林や木材に関する科学分野の優れた研究成果に対して贈られるマルクス・ヴァーレンベリの授賞式が、9月28・29日にスウェーデンのストックホルムで行われました。東京大学の磯貝明教授、齋藤継之准教授および元・同助教で現フランス国立科学研究庁上級研究員の西山義春博士の三名がアジアで初めての受賞となりました。

 日本で1年間に消費される木材量は国内生産量とほぼ同じであるにも関わらず、輸入材の比率は70%を越えています。間伐材を有効に利用する手段がなかったことが原因であり、新たな利用方法を探る研究が盛んに行われています。京都議定書で定めた樹木の吸収による二酸化炭素の削減目標の達成、地域林業の活性化といった観点からも間伐材の利用促進が望まれています。

今回の研究で磯貝教授らは国産未利用針葉樹材から得られるセルロースを用いてセルロースシングルナノファイバー(CSNF)を効率よく生成する方法を開発しました。セルロースは細長い分子が集まって繊維を作っています。従来のセルロースナノファイバーでは集まる分子の数がばらつくため、不均一な太さの繊維を作ることしかできませんでした。磯貝教授らはTEMPOという触媒を用いることで、分子をばらけやすくすることに成功したのです。こうしてできたのが太さが分子1個分にそろえられた繊維であるCSNFです。プラスチックなどに混ぜることで透明度を保ったまま強度を高めることができるためガラス材の代わりになることが期待されるほか、再生医療の分野での利用も検討されています。
 これまで廃棄するだけだった間伐材が高付加価値の新たな材料として活用できるようになれば経済性が向上するばかりか、深刻な後継者不足などによって存続が危ぶまれている林業にも新たな風が吹くかもしれません。

大学ジャーナルオンライン編集部

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