筑波大学の植田宏昭教授、釜江陽一助教らのグループは、熱帯太平洋でのエルニーニョ現象とそれに引き続くインド洋の海面水温の変化によって、台風の発生頻度が変動することを解析的・実験的に明らかにした。
2017年に店頭からポテトチップスが消えたのは、2016年の頻発する台風による記録的な大雨で北海道のジャガイモ生産が落ち込んだことが原因だった。一方、エルニーニョ現象(海水温変動)は冬に極大を迎え、その後徐々に減衰するため、春から夏における台風発生に与える影響は弱いとされていた。しかし、統計的には両者間の有意な関係を示しており、詳しく調査する必要があった。
近年の研究により、インド洋の海水温はエルニーニョ現象から約半年遅れの春から夏の前半にかけて上昇し、それに伴って遠く離れた熱帯西太平洋上では、高気圧性循環(下降気流)が強化されることもわかってきた。そこで、研究グループは、過去に生じたエルニーニョ現象を抽出し、その衰退期の様々な観測値と気候モデル実験データセットにおける台風の発生頻度を調査した。
その結果、熱帯太平洋のエルニーニョと、それに連動して変動するインド洋の海水温との複合影響により、台風の発生数は、エルニーニョのピーク後の春から秋にかけて熱帯太平洋上で減少する一方で、夏の後半から秋には南シナ海を中心に増加に転じることを明らかにした。
気候・海洋力学の発展により、エルニーニョ現象の発生については、高い確率で半年前から予測が可能なことから、日本における台風被害への対策をはじめ、様々な社会経済活動におけるリスク管理に大きく貢献することが期待される。