ヒトやマウスの細胞ではDNAが、ヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付いて規則正しく折り畳まれ小さな核の中に収納される。このDNAとタンパク質の複合体は一般にクロマチンと呼ばれる。精子では、このヒストンの90%以上がプロタミンと呼ばれる小型タンパク質に置換され、DNAがさらにコンパクトに折り畳まれるため、クロマチンは高度に凝集し、精子核は普通の細胞核の数分の1の大きさになる。
このヒストンプロタミン置換とクロマチンの凝集は、精子の受精能獲得に必須だが、一方でわずかに残ったヒストンの、精子ゲノム内での場所やその機能については、長年の議論の的だった。解明にはクロマチンを核から均一に溶出し解析する必要があるが、精子クロマチンは非常に固く、従来法では均一に溶出できないため評価が困難だった。
今回、東京大学の山口幸佑大学院生、岡田由紀准教授の研究チームは、プロタミンを除去する性質を持つヌクレオプラスミンで精子を処理することによって精子クロマチンを均一に可溶化する手法を開発し、精子ヒストン局在をより正確に評価することを可能にした。また、この手法を用いて局在解析(次世代シーケンシング解析)を行った結果、精子ヒストンは受けた修飾(アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化など)の状況によって、特定のゲノム領域に規則的に局在することを明らかにした。
ゲノムDNA配列を変化させずに表現形や遺伝子発現量を変化させる仕組みはエピゲノムと呼ばれる。近年、父親の生活環境や習慣が精子を介して子供に伝わる「エピゲノム遺伝」現象が大きな注目を集めており、今回の研究成果はそのメカニズムの解明にも役立つ知見を提供すると期待される。