理化学研究所、千葉大学大学院の共同研究グループは、腸内細菌の代謝物である短鎖脂肪酸の一種プロピオン酸を授乳期の母マウスに投与すると、子の気管支喘息の病態の一つであるアレルギー性気道炎症が抑制されることを発見した。
近年、微生物の代謝物である短鎖脂肪酸などが腸の恒常性を維持する宿主免疫応答に影響を与え、その制御異常が疾患につながることが指摘されている。特に、短鎖脂肪酸の一種であるプロピオン酸はヒトなど多くの動物の腸内の主要な微生物発酵代謝物で、腸だけでなく全身に多彩な健康増進効果があることが明らかになりつつある。
共同研究グループはこのプロピオン酸に着目。授乳期における母マウスのプロピオン酸摂取が子マウスのアレルギー性気道炎症にどのように寄与するのかを調べた。その結果、細胞膜上で細胞外シグナルを細胞内に伝達するGタンパク質共役受容体の一種GPR41を介してアレルギー性気道炎症が抑制されることが分かった。
また、ヒト出生コホート(ある期間内に生まれた人々の集団)において気管支喘息を発症した小児では、生後1カ月の糞便中のプロピオン酸濃度が低下していた。解析により、3属の腸内細菌(Varibaculum属、Bifidobacterium属、Parabacteroides属)が糞便中プロピオン酸の生成に関与している可能性が示唆された。
今回の成果は、特定の腸内細菌が産生することが知られている短鎖脂肪酸が腸管内のみならず、アレルギー疾患などの腸管外疾患に深く関与していることを示している。今後、腸内細菌や短鎖脂肪酸をターゲットとした、気管支喘息を含めたアレルギー疾患に対する新しい治療法の開発に貢献すると期待できるとしている。
論文情報:【Gut Microbes】The propionate-GPR41 axis in infancy protects from subsequent bronchial asthma onset