慶應義塾大学大学院理工学研究科KiPAS数論幾何グループの平川義之輔博士課程生(3年)と松村英樹博士課程生(2年)は、『辺の長さが全て整数となる直角三角形と二等辺三角形の組の中には、周の長さも面積も共に等しい組が(相似を除いて)たった1組しかない』という、これまで知られていなかった定理の証明に成功した。
線の長さや図形の面積は、私たちの身の回りにあるものを測量する際に欠かせない基本的な「幾何学」的対象だ。例えば、辺の長さが3:4:5の直角三角形は教科書でもおなじみの図形だが、辺の長さが全て「整数」となる直角三角形はどのくらいあるか、という問題は、古代ギリシャ時代に研究がなされた重要な問題だった。この流れを汲んで20世紀に大きく発展した現代数学の一分野が「数論幾何学」だ。
今回の研究では、数論幾何学における「p進Abel積分論」と「有理点の降下法」と呼ばれる手法を応用。三辺の長さの整数比が377:352:135の直角三角形と、三辺の長さの整数比が366:366:132の二等辺三角形は、比をそのまま長さとすれば、周の長さが864(=377+352+135=366+366+132)、面積が23760(135×352÷2=132×360[二等辺三角形の高さ]÷2)であり同じ値になることが分かった。
今回解決した問題そのものは古代ギリシャ時代にも考察されていたと推測される。研究ではp進Abel積分論に基づいた「Chabauty-Coleman法」、さらに「2-降下法」が用いられたが、ともに1980年代以降に開発された比較的新しい手法だ。このような素朴な問題と洗練された解決手法の対比、そして時代の大きな隔たりを伴う研究成果は、現代数学の美しさを引き立てる貴重な成果であるとしている。