東京大学の嶽山正二郎教授と松田康弘准教授の研究グループは、新規導入した超強磁場発生装置の完成により1200テスラという強力な磁場を発生させ、高い信頼性での計測に成功。世界記録を更新し強磁場科学を新たな段階に進めた。
磁場は精密制御が可能な物理環境の一つ。電子の軌道とスピンに直接働きかけられるため磁性、超伝導、半導体、ナノ物質などの固体電子物性研究には不可欠だ。1000テスラ領域の磁場では、物質中の電子の運動を1ナノメートルスケールに閉じ込めることや、非常に重い電子を磁場で制御することが可能なため、新規な機能を解明するプローブとして、また物性研究の未知の領域開拓のため、物性測定が可能な強磁場発生装置が求められていた。
強磁場発生法は、大きく「磁束濃縮法」と「一巻きコイル法」に分かれる。「磁束濃縮法」は、発生させた磁束を濃縮して超強磁場を得るもので、濃縮に爆薬を用いる「爆縮法」と、電磁気的手法による「電磁濃縮法」がある。「一巻きコイル法」では、一巻きのコイルに大電流を瞬時に流し、簡便に超磁場を発生させるが300テスラ程度が限界。今回、磁束濃縮法を採用し強磁場発生を目指した。
研究グループは、文科省最先端研究基盤事業計画の下、1000テスラ級電磁濃縮超強磁場発生装置を新規導入、2018年1月に全システムを完成させた。これにより、室内での実験、かつ高度に制御された磁場として、これまでの世界最高記録985テスラ(2018年、同研究グループ)を大幅に更新し1000 テスラを大きく超えて1200テスラに到達した。
今後、1000テスラ領域での極限的な超強磁場環境での物性計測が安定して実現可能であり、超強磁場科学の次世代に向けた新しい取り組みが期待される。