ベンゼンに代表される芳香族化合物は、今日の物質科学を支える重要な化合物群の一つである。ベンゼンの特異な性質は芳香族性と呼ばれ、芳香族性をもたらすのは(4n+2)個の環状に配置されたπ軌道の電子であるとされてきた。ところが最近、π軌道に限らず、環状に配置されたσ軌道に(4n+2)個の電子が収容された場合でも、芳香族性が発現することが明らかになった。

 ここから、π軌道およびσ軌道からなる芳香族性を同時にもつ化合物(二重芳香族化合物)が存在するかどうか、という疑問が生まれたが、このような化合物について理論的な予測はあっても、室温で安定な化合物として合成・単離し性質を解明するような実験的な研究は、極めて限られていたという。

 今回、埼玉大学の研究グループは、πおよびσ二重芳香族化合物として、ヘキサセラニルベンゼンジカチオンを設計した。この分子は、中央のベンゼン環がπ芳香族性を発現し、その周縁部に存在する6つのセレン原子官能基が形成するσ軌道に10個の電子が収容されるので、σ芳香族性も発現すると予想した。

 そして、ヘキサセラニルベンゼンジカチオンを合成・単離し、その電子状態を実験および理論の両面から調べた結果、π軌道から構成される部分においてもσ軌道にから構成される部分においても、芳香族化合物に特有な要素が確認された。つまり、この分子がπおよびσ二重芳香族性を有することが明らかになった。

 二つの芳香族性を同時に持つ二重芳香族分子の合成に成功し、二重芳香族性の性質を理論および実験の両面から初めて明らかにした本成果は、物性化学の新しい学理をもたらすものと期待される。

論文情報:【Communications Chemistry】Double aromaticity arising from σ- and π-rings

埼玉大学

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大学ジャーナルオンライン編集部

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