東京大学の研究グループは、株式会社LITALICOが運営するLITALICO研究所と共同で、自閉スペクトラム症(ASD)知覚体験シミュレータを利用したワークショップを開催。参加者がASD者に抱くネガティブな感情がワークショップの参加によって改善されることを明らかにした。
ヘッドマウントディスプレイ型シミュレータ(ASD知覚体験シミュレータ)は、定型発達者(発達障害ではない多数派の人々)にASD者が知覚する世界を体験しASD者の抱える困難を理解してもらうために開発された。障害の体験を通じて差別偏見の改善を試みる過去の研究では差別偏見の改善だけでなく悪化の報告もあった。しかし、シミュレータの使用は未検討だった。
今回、ASD知覚体験シミュレータを利用したワークショップを開催し、参加者(217名の定型発達者)のASDに対する印象をワークショップの前と後に質問紙によって測定。ASDの知覚を体験することによる印象の変化を調査した。
その結果、ワークショップ直後の不快感情がワークショップ参加登録時よりも有意に低下したことを確認。さらに、不快感情の低下が6週間後でも持続していた。この結果は、ワークショップに参加してASD者の知覚を体験したり、ASD者の語りに触れたりすることで、ASDに対するネガティブな感情が持続的に低減することを示唆しているという。
このワークショップは学校の授業や企業の研修といった様々な場面での利用が考えられる。これにより、ASD者の抱える感覚知覚に関する困難への理解が深まり、ASDに対するネガティブな感情が改善されれば、ASD者の可能性が十分に発揮できる社会の実現が期待できるとしている。