東京大学の研究グループは、思春期に心理的困難さが高まる人ほど「ミスマッチ陰性電位」が低下するという関係性を明らかにした。
ミスマッチ陰性電位とは、同じ音を繰り返し聞く課題中に時々違う音を聞くと、違う音を聞いてから100~200ミリ秒後に前頭部で観察される陰性の電位変化のことである。児童から成人にかけてミスマッチ陰性電位の振幅は増加するが、精神疾患のリスクが高いと異なる変化を示すことが報告されており、以前からミスマッチ陰性電位は精神疾患と関連する指標であると考えられている。
今回の研究では、東京都居住の思春期対象者が参加する大規模な疫学研究である東京ティーンコホート調査から、研究参加に同意された67名を対象に、13歳と16歳の2回のタイミングで心理的困難さのアンケートと脳波測定を行った。参加者の親が回答した「子どもの強さと困難さアンケート」から評価される13歳から16歳における心理的困難さの変化と、脳波から測定される13歳から16歳のミスマッチ陰性電位の変化の間に関連があるのかどうかを調べた。
その結果、13歳から16歳にかけてミスマッチ陰性電位に平均値の違いはなかったが、13歳から16歳にかけて心理的困難さが高まる人ほど、ミスマッチ陰性電位が経時的に低下することが示された。また、16歳の時に心理的困難さが低いグループでは、13歳から16歳のミスマッチ陰性電位に変化がみられないのに対し、16歳の時に心理的困難さが高いグループのミスマッチ陰性電位は、13歳から16歳にかけて年齢とともに低下することも明らかとなった。
本研究は、思春期一般人口で生じる心の不調の変化と、ミスマッチ陰性電位の発達的な変化が関連することを初めて明らかにした点で意義深い。本研究成果は、心の発達に重要な思春期において、心の不調が生じるメカニズムの解明にも役立つ可能性があり、心の健康増進に貢献することが期待される。