生存競争の厳しい自然界において、なぜ多種多様な生物が共存できるのか?なぜ一番強い種類だけにならないのか?この問いは、生態学における重要な未解決問題の一つとされている。
京都大学フィールド科学教育研究センターの小林和也講師は、自然界で見られる性淘汰のうち「性的嫌がらせ」が生物多様性を維持している可能性を理論的に示すとともに、シミュレーションによってこの理論が上手く機能することを示した。
生態学における「性的嫌がらせ」とは、生まれてくる子供の数が減ってしまうかわりに競争相手よりも自分の子供の割合を高める性質のことで、トンボのオスがメスに対して執拗に求愛したり、植物の花の柱頭で花粉が他の花粉によって受精が起こるのを妨害する物質を出したりすることを言う。交尾を巡って競争する場合には有利だが、競争相手が不在で確実に交尾ができる場合には子供の数が減ってしまうため不利になる。
つまり、個体数が多く交尾を巡る競争が激しい場合には「性的嫌がらせ」が起きて子供の数を減らすが、個体数が少なく競争が起こらない場合には「性的嫌がらせ」が起きず子供の数が増える。結果として、個体数が多い種では「性的嫌がらせ」が激しくなり個体数の増えすぎを防ぎ、逆に個体数が少ない種では「性的嫌がらせ」が起こりにくく個体数が増えやすくなる。
小林講師はこの状況を数式で表現し、その生物の個体数に対して最適な「性的嫌がらせ」の程度を解析。このメカニズムを組み込んだシミュレーションで、十分に広い空間があれば数百種類の生物が10,000世代にわたって共存できることの証明に成功した。
今後は、この理論モデルの予測を実際の生物で検証していく予定だという。