数学の世界では、正答がただ一つに決まる場合だけでなく、前提によって命題の真偽が変わることがある。こうした「真理の相対性」は、私たちが生きる社会や世界でもしばしばみられ、前提の違いから誤解や問題に直面することもあるだろう。

 そのため、数学に限らず人間形成においても、相対的な真理観や前提についての認識を育成することは極めて重要だが、初等・中等教育においてそれをどのように育成するかという方法論は明らかとされていなかった。

 今回、筑波大学の研究グループは、数学の学習において前提を意図的に曖昧にした課題を設計・実践することにより、結論の真偽は前提によることや、真偽を決めるためには前提を明確にする必要があることを、児童生徒が理解できるようになることを示した。

 通常の数学の教材開発では、問題の答えが一つに定まるよう、問題の前提条件を明確にすることが一般的だが、本研究ではあえて、前提条件を曖昧にした課題を設定するというアイデアを導入した。児童生徒の意識が課題の前提に向くことを意図し、小中学校の教師と協働しながら検討サイクルを繰り返した結果、「課題の前提を意図的に曖昧にすることで異なる正答が生まれるようにする」、「理論上は異なる正答が可能でも児童生徒が思いつかないと予想される場合には、そうした正答の可能性を示唆する」、「正答が一つに定まるよう課題を修正してその曖昧さをなくす機会を設ける」という数学の課題設計原理の構築に至った。

 構築した原理に基づいて設計した課題を用いて、小中学校での授業を実践し、児童生徒の発話やワークシートの記述から効果を分析したところ、真理の相対性や前提の明確化といった相対的な真理観の育成に本課題が有効であることが示されたという。

 本研究で構築した原理は、個々の具体的な課題の設計を裏付ける一般的な課題設計原理であることから、今後はそれに基づいて各教師が自ら適切な課題を設計できるようになることが期待される。ひいては、児童生徒の相対的な真理観がさまざまな場面で育成されることにつながると考えられる。

論文情報:【Cognition and Instruction】Introducing students to the role of assumptions in mathematical activity

筑波大学

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