名古屋大学大学院生命農学研究科の石川明准教授らの研究グループは、世界で初めて、肥満抵抗性に関わる新しい遺伝子を同定したことを発表した。
近年、肥満は生活習慣病などの万病の元であることが報告されている。また、家畜では、肥満は畜産物の生産性の低下を引き起こす元凶であることも報告されている。
肥満は、複数の遺伝要因と環境要因が複雑に関わり合って統御されている。これまでに、ヒトやモデル動物(マウスなど)において、BMI、体重、白色脂肪組織重量や血中脂質濃度など、肥満に関わる形質を制御する多くの遺伝子座が染色体上に位置付けられてきた。しかし、これらの原因遺伝子を同定することは困難だった。
本研究グループは、野生マウスの遺伝資源から、Ly75(lymphocyte antigen 75)遺伝子が白色脂肪組織重量を減少させる、すなわち肥満を抑制する最有力候補遺伝子であることを発見。そして今回、Ly75のノックアウトマウスなどを用いた遺伝解析や因果分析により、Ly75の遺伝子型が変化してLy75のmRNA発現量が高くなると、白色脂肪組織の重量が減少する(すなわち、肥満を抑制する)という因果関係の証明に成功した。
Ly75はこれまで、免疫応答に関わる機能を担うことが報告されていたが、肥満に関する報告は全くなかった。本研究成果により、Ly75が肥満に関わる遺伝子であることが世界で初めて明らかになった。
本研究成果は、肥満生物学に新しい知見を提供するとともに、今後、Ly75遺伝子の脂質代謝に関わる分子機能を解明することで、ヒトでは肥満を克服するためのゲノム医療への応用に、家畜では健康改善と畜産物の生産性向上のためのゲノム育種への応用に繋がると考えられる。