信州大学、早稲田大学、東洋大学、順天堂大学、鹿屋体育大学、奈良先端科学技術大学院大学の共同研究グループは、難しい運動動作の習得において、熟練者の顔を自身の顔に変換した映像で動作観察を行いながら運動イメージを行うことで大脳の興奮性が増加し、運動学習が促進される可能性を見出した。
スポーツなどで新たな運動動作の習得を試みる際、映像で熟練者の動作を観察したり、自身が動作を行うイメージ(運動イメージ)をすると、実際に動作する時と同じ神経細胞群が活動し、運動学習に効果的であることが明らかとなっている。
一方、未知で難度の高い運動に対しては、動作観察と運動イメージを行っても大脳神経細胞群の活動が増加せず、運動学習への効果はみられない。そこで本研究グループは、難しい動作に対しても大脳を賦活させる方法を検討し、「自分の顔」に着目した。
自分の顔は他人の顔よりも強く認識され、脳の下頭頂小葉の活動を増加させる。下頭頂小葉は運動に関連する脳領域に神経接続しているため、「難しい課題を行う熟練者の顔を自身の顔に変換した変換像」を観察しながら運動イメージを行えば、運動に関連する脳領域の活動が高まると考えた。
そして、被験者12名に実験に参加してもらい、難度の低い易課題(両手首を素早く挙げる動作)と難度の高い難課題(2個のテニスボールを右手のひら上で回す動作)を用いて、熟練者の動作観察時と変換像の動作観察時で大脳(皮質脊髄路)の興奮性を比較した。
その結果、易課題では、熟練者・変換像観察時において大脳の興奮性に差はなかったが、難課題では、変換像観察時の方が熟練者観察時よりも大脳の興奮性が大きくなった。また、変換像と本人の類似性が高いほど、大脳の興奮性が増加することを発見した。
このことから、画像変換技術による顔変換システムを用いた動作観察と運動イメージの組み合わせは、難しい動作を習得する際に有用と考えられる。本研究成果は、スポーツでの新たなスキル習得や、リハビリテーションでの動作の再獲得へ応用が期待される。