東北大学とトロント大学の研究チームは、マウス肺から細胞を除去し、その中にヒト細胞を培養定着させたハイブリッドバイオ人工肺のマウスへの移植実験に世界で初めて成功した。
慢性的ドナー不足にさらされる臓器移植医療において、バイオ人工臓器による移植は究極的手段といえる。移植可能なバイオ人工臓器の有力な作成法には、脱細胞化・再細胞化法がある。これは、ドナーとなる動物臓器から薬剤により動物細胞のみを完全に取り除き(脱細胞化)、残った「鋳型」にヒト培養細胞を注入し還流培養を行って細胞を定着させ(再細胞化)、臓器を復元再生する技術である。
本研究グループは今回、極小サイズのマウス肺を顕微鏡下手術により還流培養サーキットに接続することに成功し、マウス肺の臓器再生プラットフォームを開発することに成功した。このマウス肺から細胞を完全に取り除き、ヒト由来血管内皮細胞を注入して臓器培養を行うと、マウス肺に新たな肺血管網が再生されることを確認した。
フラクタル解析という数学的手法により、マウス肺の再生に最適なヒト血管内皮細胞の数を割り出すと、3000万個が最適であることが導かれたという。そこで、脱細胞化マウス肺に3000万個のヒト血管内皮細胞を注入し、再生された肺をマウスに移植して血流再開したところ、肺すみずみにまで血流が行き渡った。
バイオ人工肺の臨床応用に向けては、将来的にヒト肺と遜色ない大きさであるブタ肺をヒト由来細胞により再生する研究を目指している。従来、移植臓器の実験プラットフォームが不足していたが、今回の研究により、ラットやブタの10分の1以下のリソースで実験が行える小型なマウス肺での臓器再生プラットフォームを確立することができた。この成果は、バイオ人工肺の開発を大きく加速させることが期待される。