京都大学の小川誠司教授らを中心とする研究チームは、食道がんが高度の飲酒歴と喫煙歴を有する人に好発することに着目し、一見正常な食道に生じている遺伝子変異を、最新の遺伝子解析技術で詳細に解析し、がんが高齢者で発症するメカニズムの一端を解明することに成功した。研究成果は、国際科学誌「Nature」にオンライン掲載された。
がんの70%は65歳以上の高齢者に発症するが、その理由ははっきりしない。また、喫煙や飲酒といった生活習慣ががんの発症に関係することもよく知られているが、これらの因子が加齢と関連してどのようにがんの発症に関わるかについても解明は進んでいない。
研究グループは、様々な年齢、喫煙歴・飲酒歴を有する被験者から内視鏡下で食道の上皮を採取し、次世代シーケンサーを用いて解析した。その結果、食道上皮は、食道がんで頻繁に認められる遺伝子の変異を獲得した細胞が、加齢とともに徐々に増えていき、70歳を超える高齢者では全食道面積の40~80%がこのような細胞で置き換わることがわかった。
こうした食道上皮の異常な細胞による「再構築」は、すでに乳児の時期から始まっており、全ての健常人で例外なく認められたが、高度の飲酒と喫煙歴のある人では、この過程が強く促進され、しかも、がんで最も高頻度に異常が認められるTP53遺伝子や染色体に異常を有する細胞の割合が顕著に増加することが明らかになった。
これらの結果は、なぜがんが高齢者に好発するのか、また、それがどのようにして飲酒や喫煙といったリスクによって促進されるのかについて、重要な手がかりを与えるものと期待される。
論文情報:【Nature】Age-related remodelling of oesophageal epithelia by mutated cancer drivers