大阪公立大学の畑野快准教授らの研究グループは、20代前半から後半における雇用形態とアイデンティティおよび人生満足感が関連していることを明らかにした。

 アイデンティティとは自分らしさの感覚を表し、青年心理学では12歳から24歳前後の青年期に発達すると考えられている。アイデンティティが明確かどうかは、人生の満足感や心理的な健康に強く関わるとされる。

 特に、大学を卒業する頃の20代前半の成人にとって、正規職に就くことは、アイデンティティの確立に重要な役割を果たすと考えられる。しかし、アイデンティティの発達は生涯にわたるプロセスであり、心理的健康に及ぼす影響は青年期にとどまらない。そのため、本研究では、20代後半のアイデンティティの発達をより理解すべく、20代前半から後半においての1)雇用形態とアイデンティティの関係性、2)雇用形態の変化とアイデンティティ確立の連動性、3)雇用形態によるアイデンティティと人生満足感の関係性を調べることとした。

 日本人の成人男女875名(欠損値含む、平均年齢24.75歳)を対象として、2015年と2019年に追跡調査を実施した。回答者をa:正規職、b:非正規職、c:無職、d:職を得た群、e:職を失った群の5グループに分類し、アイデンティティの得点(高いほどアイデンティティが明確)との関連を検討した。

 その結果、職を得たグループdではアイデンティティの得点に変化はなかったが、職を失ったグループeでは低下していた。このことから、職を得ることよりも失うことがアイデンティティ変化に大きな影響を与えることがわかった。また、雇用形態に関わらず、アイデンティティと人生満足感の得点には正の関連があることが確認されたという。

 本研究成果は、アイデンティティが青年期だけでなく成人期にもウェルビーイングを支える重要な要素であることを示唆し、心理的発達や職場のメンタルヘルス・ケアに関する理解を深化させるものと期待される。

論文情報:【Journal of Youth and Adolescence】Does Employment Status Matter for Emerging Adult Identity Development and Life Satisfaction? A Two-wave Longitudinal Study

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2022年4月、大阪府立大学と大阪市立大学を母体とした「大阪公立大学」が開学

大阪公立大学は、2022年4月より、大阪府立大学と大阪市立大学が統合し開学しました。ともに約140年の歴史ある大学で、12学部を擁す総合大学で、学生数は約1万6千人。全国最大規模の公立総合大学です。大都市大阪に人や社会、都市、世界を結びつける新たな"知の拠点"[…]

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