大阪大学大学院と国立がん研究センター中央病院の研究グループは、「大腸内視鏡(カメラ)下小腸・大腸ステップ生検」を行い、右側大腸と左側大腸について異なる臓器ともいえる遺伝子発現の違いを発見した。
左側大腸と右側大腸は大腸内視鏡的には違いはない。しかし、大腸がんは左側大腸に多く、右側大腸がんとは発がん機構も異なることが分かりつつある。研究グループは今回、世界初報告となる「大腸内視鏡(カメラ)下小腸・大腸ステップ生検」と呼ばれる生検のサンプルを用いて、大腸(盲腸、上行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸)と小腸(回腸末端)の遺伝子解析を行った。
その結果、健常者(大腸カメラで病気を認めない人)では、回腸末端と大腸との間に多くの遺伝子発現の差があった。特に、大腸では「水分吸収に関わる遺伝子群」が、回腸末端では「T細胞の活性化や分化に関わる遺伝子群」が高発現していた。また、右側大腸では生体由来ではない異物に反応し制御する役割、左側では細胞外マトリックス(基質)に関わる遺伝子発現による保水、細胞接着制御を行っていた。
また、大腸がん患者の大腸の「正常組織」は、健常者と異なる遺伝子発現を示し、既に大腸がん発生の素地となる状態(未病状態)であることが分かった。特に、進行大腸がん患者では、正常の大腸粘膜に加えて大腸がんとは離れた回腸末端でも遺伝子の変動が観察された。回腸末端は腸管免疫の中枢であることから、小腸免疫システムの大腸がん進展への関連性が明らかとなった。
今後はこのような未病状態を健康に戻す「先制医療」が重要となる。小腸免疫システムを活性化させるような新規の免疫療法の開発が期待されるとしている。