麻布大学大学院と国立遺伝学研究所の研究グループは、日本産野生由来のマウス系統(MSM/Ms)を用いて、他者の情動を検知する「情動伝染」という機能には嗅覚情報だけではなく視覚情報が不可欠であることを明らかにした。
「情動伝染」とは、ある個体の情動が別の個体へと伝染する現象のこと。これは、共感性の最も核となる現象であると考えられており、ヒトのみならず、マウスやイヌなど多くの動物種で観察されている。マウスは本来「嗅覚」でのコミュニケーションが主要であり、匂いを用いて情報のやりとりをしていると考えられているが、情動伝染においては何を手がかりに他者の情動情報をキャッチしているのかは明らかになっていなかった。
そこで今回の研究では、タブレット端末(iPad)を用いてマウスに2次元の映像を呈示し、その映像には見知らぬマウスが電気ショックを受けて痛がっている様子を流した。その結果、2次元の映像に加えて別室でショックを受けた個体の尿を呈示したとき、映像を見ているマウス自身はショックを受けていないにも関わらず、有意に高いすくみ行動(マウスの恐怖反応の一種)を発現した。
さらにその映像にモザイク加工を施すと、施していない通常の映像を見ている時と比較して、有意にすくみ行動の発現が弱まった。このことから、マウスの情動伝染には嗅覚情報に加えて視覚情報も重要であることが分かった。一方、聴覚情報の重要性については、タブレットから音声が流れない場合でも、音声が流れる条件での結果と違いがなかったことから、聴覚情報は情動伝染に顕著な効果を示さないことが明らかになった。