近畿大学生物理工学部の堀端章准教授、近畿大学民俗学研究所の藤井弘章教授と学校法人りら創造芸術学園の共同研究グループは、高野山麓のカヤの樹から400年前の接ぎ木の痕跡を発見した。

 世界遺産である高野山の山麓にはカヤの樹が栽培されており、旧高野寺領である海草郡紀美野町の「ヒダリマキガヤ群」は和歌山県指定天然記念物となっている。これらのヒダリマキガヤは、自然に生息域を広げたのではなく、実から採れる油の生産を目的とした高野山の奨励により、人為的に栽植されたと推測されるという。

 今回、研究グループは、紀美野町内の推定樹齢400年のカヤの遺伝的構造を分子遺伝学的手法を用いて調査した結果、株元と主幹で別個体とみられる遺伝的差異を発見し、これらの樹が接ぎ木された可能性を見出した。これにより、少なくとも400年前にヒダリマキガヤの接ぎ木技術が確立されており、積極的に繁殖されていた可能性が示唆された。また、この樹は、接ぎ木技術が利用された現存する樹としては、和歌山県内最古にあたるという。

 紀美野町の西側地区と東側地区で、カヤの樹の遺伝的構造に地域的差異があることも見出した。このことは、1000年以上前から隣接するこの地区間で人がカヤの種子を持ち出したり持ち込んだりすることがなく、カヤの樹の遺伝的交流が生じなかったことや、ヒダリマキガヤが最初は接ぎ木ではなく種子で持ち込まれたことなどを示唆している。

 このように、カヤの樹の遺伝的特徴を明らかにすることにより、当時の人々の生活や交流の状況を知ることにつながると期待され、民俗学と分子遺伝学の文理融合型研究による重要な成果である。

参考:【近畿大学】世界遺産高野山麓にある樹齢400年のカヤの樹に接木の痕跡を発見 当時の人々の交流や生活を推察する一端となる研究成果

大学ジャーナルオンライン編集部

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