裁量労働制を裁量が低い労働者に適用することで労働環境が悪化することが、東京大学公共政策大学院の川口大司教授、早稲田大学教育・総合科学学術院の黒田祥子教授らの研究で分かった。

 裁量労働制は勤務時間を厳密に記録せず、一定の労働時間を「みなし時間」として設定、労働者に業務遂行の裁量を認める制度。研究職やデザイナー、弁護士など20の業務を対象とする「専門業務型」と、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務を対象とする「企画業務型」がある。

 研究グループは厚生労働省が2019年11月から12月に実施した全国規模の裁量労働制実態調査のデータを活用し、裁量労働制の適用が労働者の労働時間、賃金、健康、満足度に与える影響を調べた。

 分析に当たっては、労働者がどの程度自律的に業務を遂行できるか、基本的業務内容(目標や締切)の決定方法、業務内容や量の決定方法、進捗報告の頻度、業務実施方法や時間配分の決定方法、作業開始および終了時間の決定方法の5つの基準において調べ、自己決定の割合が高い労働者を「裁量が高い」と定義した。

 その結果、裁量労働制を適用されていない労働者の週平均労働時間が43.9時間だったのに対し、適用されている労働者は2時間多い45.9時間だった。年収は適用者が非適用者より7.8%高かった。

 また、高い裁量を与えられている労働者に健康状態の悪化は見られなかったが、低い裁量しか持たない労働者には長時間労働が健康に悪影響を与える傾向が見られた。仕事に対する満足度も、高い裁量を与えられている労働者は向上する一方、低い裁量しか持たない労働者は低下傾向があった。

 研究グループは裁量労働制が必ずしも労働環境の悪化をもたらすものではないが、労働者の裁量を確保できないにもかかわらず、裁量労働制を拡大することはリスクを伴うとみている。黒田教授は「今後の政策立案においては、裁量が確保された労働者に限定したうえで裁量労働制の適用が拡大できる環境をどのように担保するか手続きに関する慎重な議論が必要だと思います」とコメントしている。

論文情報:【Industrial Relations: A Journal of Economy and Society】Exemption and work environment

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