追手門学院大学の高見剛教授の研究チームは、九州大学の多田朋史教授と共同で、簡便な化学フッ化を用いてデータベースに存在しない新たな物質の合成に成功し、室温付近でフッ化物イオンが超イオン伝導することを実証した。リチウムイオン電池に代わる次世代電池の開発加速が期待される。
「全固体フッ化物イオン電池」(FIB)は、フッ化物イオン(F-)が固体電解質を介し正極・負極間を移動して充放電できる次世代型の蓄電池。リチウムイオン電池よりエネルギー密度が高く、全固体電池のため安全で、リチウムの50倍豊富に存在するフッ素を用いるため安価だ。しかし、FIBの動作温度は固体電解質のフッ化物イオン伝導率が低いため室温を超える140℃以上となる。また、固体電解質のイオン伝導率向上にはイオンが通れる隙間(空孔)を作り出す必要がある。
研究では今回、フッ化キセノン(XeF2)を用い、低温(200℃)で化学フッ化を実施。その結果、通常では複雑な構造(orthorhombic相)を維持するはずが、新奇で単純な構造(cubic相)へ構造相転移した新物質TlF(フッ化タリウム)を得た。この構造は既存の銅超イオン伝導体の逆構造[CuサイトがF、Br(臭素)サイトがTl(タリウム)で構成]であり、Intrinsic(内在的な)F空孔が世界最高レベルの割合で導入されていた。また、150℃付近まで化学的に安定で、TlとFは粒内にほぼ均一に分布。温度上昇によりイオン伝導率は増加し60℃で超イオン伝導域に達した。
この結果から、研究チームは優れたフッ化物イオン伝導体の実現のためにIntrinsic F空孔を利用する新しい設計指針を提案している。今回の発見は、新たなフッ化物イオン伝導体創出に向けて戦略の広がりを示唆するものとしている。