芝浦工業大学工学部の田嶋稔樹教授(有機電気化学研究室)らの研究チームは、フッ化カリウム(KF)から無水フッ化水素(HF)を定量的に生成するオンデマンド合成法の開発に成功した。
有機フッ素化合物は、医薬品、農薬、機能性材料、陽電子放出断層撮影(PET)検査用分子プローブなど多様な分野で利用されているが、天然にはほとんど存在しないことから、必要に応じて合成する必要がある。
最も安全・安価なフッ素化剤の一つとして知られるKFは、有機溶媒に難溶であることが課題である。一方、HFも安価なフッ素化剤であるが、毒性、腐食性を有し、さらに室温で気体であることから、取扱いが困難であることがまた課題であった。
本研究では、特別な設備を必要とせず、KFから無水HFを定量的に生成する合成法を開発した。アルカリ金属イオンとのカチオン交換能を有するカチオン交換樹脂「Amberlyst 15DRY」に着目し、KFとのカチオン交換反応を利用することで、アセトニトリル(MeCN)中で無水HFを合成することができた。通常、KFはMeCNに難溶であるが、カチオン交換反応がKFの溶解を劇的に促進するという。また、Amberlyst 15DRYは再生可能であり、繰り返し利用することができる。
さらに、生成した無水HFに対して種々のアミンを加えることで、新規フッ素化剤として有望なAmine-3HF錯体のテーラーメイド合成も実現した。これにより、安全なKFから無水HFを必要な時に必要な場所で生成した上、目的とするフッ素化反応に適したフッ素化剤(Amine-3HF錯体)を自由自在に合成できるようになると期待される。本研究成果は、新たな有機フッ素化合物への道を大きく切り拓くものとなる。