慶應義塾大学の河野暢明特任講師らの研究グループは、Spiber株式会社のチームと共同で、オニグモのゲノムを決定し、世界で初めて多様なクモ糸タンパクとそれに関連する遺伝子の全貌を明らかにし、糸遺伝子の系統解析に成功した。
クモは7種類ほどの糸をシーンに合わせて使い分けている。その全てが別々のタンパク質で作られているため、人工合成したクモ糸を工業・産業分野で利用するには、目的に合わせてタンパク質を使い分けて合成する必要がある。しかし、糸タンパクをコードする遺伝子配列は非常に複雑で従来法では決定できなかったため、人工合成に必要となる糸遺伝子カタログは整備されず、その多様性を利用できなかった。
オニグモ(コガネグモ科)は円形の網を張るクモの仲間で、自身をつるすとき、移動や卵を包むとき、餌を捕まえるときなど、それぞれ強さや伸びやすさが異なる糸を使う。さらに、一般にクモのゲノムサイズはヒトより大きい。ゲノム情報が膨大になることから、今回ゲノムシーケンスと遺伝子探索技術を新たに整備して、オニグモの複雑な糸遺伝子の探索を試みた。その結果、精度の高い長鎖DNA配列情報を大量に取得し、最終的にゲノム決定に成功した。
また、糸遺伝子の配列は非常に高度なリピート構造(同じ配列が何度も出現する構造)をとる。そこで最新のシーケンシング技術と独自開発の解析アルゴリズムを組み合わせて、全7種類のクモ糸を作るのに使う11種類の糸遺伝子カタログの作成を世界で初めて完成させた。
今回の研究では新たなクモ糸遺伝子や、糸の強さに影響を与える低分子タンパクの存在も発見されており、今後の人工クモ糸開発に大きく貢献することが期待される。