京都大学の佐藤侑太郎博士課程学生(野生動物研究センター)を中心とする研究グループは、チンパンジーが怪我を負った個体に注意を向けること、他者の怪我に対して生理的反応を示すことを明らかにした。
チンパンジーは怪我をした個体に毛づくろいをしたり、罠にかかった個体を手助けしたりするかのような行動をとることがあり、他者への共感能力を示しているように見える。ヒトの場合は、他者の怪我や痛みに対し自分も痛みを経験しているかのような感覚を覚えることが知られている。しかし、チンパンジーが他者の怪我に対して情動的に反応するのかは不明だった。
今回、京都大学熊本サンクチュアリで暮らすチンパンジー6個体を対象に実験。チンパンジーに、怪我を負った個体と怪我のない個体の写真を並べた8 種類の画像ペアを見せた。視線計測装置を使って視線を計測すると、怪我を負った個体の写真の方が見る時間が長かった。
さらに、情動的反応に関して、非接触的測定のためチンパンジーの反応に影響を与えない赤外線サーモグラフィを用いて皮膚温の変化を調べた。ヒト実験者が手に切り傷(メイクで再現)を負う場面を目の前で再現すると、怪我場面では6個体中3 個体で鼻先の皮膚温が大きく低下した。ただ、ヒトが誤って親指に針を刺す場面では大きな差はなかった。ヒトと違い、針を使う機会がないためとしている。
ヒトと進化的にもっとも近い動物であるチンパンジーが、他者の怪我に注意を向けることや情動的に反応することを示唆するこれらの成果により、ヒトの共感能力がどのように進化してきたのかの理解が進むことが期待される。