宇宙から飛来する高エネルギー粒子、銀河宇宙線には、雲の生成を誘起して雲量を増加させる効果がある(スベンスマルク効果)。
今回、神戸大学内海域環境教育研究センターの兵頭政幸教授らの研究グループは、銀河宇宙線が増加していた78万年前の地磁気逆転途中に、増えた下層雲の「日傘効果」で冬の季節風が強まった証拠を発見し、銀河宇宙線が気候変動の要因になりうることを示した。
スベンスマルク効果により銀河宇宙線が気候に影響を及ぼす可能性があることは、以前から示唆されていたという。しかし、最近の気象観測データを使った検証では、銀河宇宙線量、雲量とも変化が微小なため、明確な証拠は得られていなかった。
そこで本研究では、地磁気逆転に伴う地磁気強度の減少で銀河宇宙線が50%以上増加していた78万年前の約5000年間に着目。銀河宇宙線が大幅に増加した期間は、雲量も大きく増加し、強い雲の日傘効果で冬の季節風が強化していたはずとの仮説を立て、中国黄土高原のレス層(風で運ばれた砂塵の層)の粒度と堆積速度の変化を調べた。
その結果、地磁気逆転途中の約5000年間では、砂塵の粒度が粗く、堆積速度が3倍以上増加していた痕跡を発見した。これは、雲の日傘効果で大陸が強く冷却され、シベリア高気圧が強化したことによって冬の季節風が強まったことを示唆するものだ。
同じ時期、大阪湾堆積物コアの分析から年平均気温の低下、気温の年較差の増大も起こっていたとみられており、今回新たに冬の季節風の強化が見つかったことで、雲の日傘効果がこれら気候変化の原因であることがほぼ確実となった。
本研究成果は、雲の気候への影響を見直すきっかけとなりそうだ。例えば、銀河宇宙線が減れば下層雲も減るため、逆日傘効果で温暖化が起こる可能性があり、現在の地球温暖化を理解する上でも雲の日傘効果は重要だといえる。