京都大学の後藤龍太郎助教らの研究グループは、アルバータ大学(カナダ)と共同で、環形動物の1種キムラハナカゴオトヒメゴカイが、口を寄せ合って行う特異な種内闘争の際、口吻で相手を弾き飛ばす高速攻撃とともに単発の大きな音を出すことを発見した。

 海生哺乳類をはじめ、魚類や甲殻類など、水中で大きな音を出す動物は数多い。しかし、環形動物などの体の大部分が柔らかい構造からなる無脊椎動物では音を出すものは知られていなかった。キムラハナカゴオトヒメゴカイは、体長約2センチメートルの多毛類で、体の前端部についた丸い口と、半透明の体から生える長い触手が特徴。日本の太平洋沿岸に生息し、タコアシカイメン科の海綿内で暮らす習性がある。

 このゴカイは、同種の他個体と遭遇すると、お互いに口を寄せ合う特異な種内闘争(マウスファイティング)を行う。その際に、一方、あるいは相互に口吻を瞬間的に突出させ相手を弾き飛ばす攻撃行動(マウスアタック)を行う。今回、この攻撃と同時に、単発の大きな水中音が鳴ることを水槽内観察により発見した。

 この水中音の音圧レベルは最大で、157 デシベル(dB:1mの距離の音圧 1μPa を 0dBとする)。周波数は 6.9 キロヘルツ(kHz)付近をピークとして、90 kHz 以上まで幅広い値を示した。さらに、マウスアタックの際に急速に膨らむ咽頭の形態変化とその筋構造から、音の生成メカニズムも推察したが、今後詳しい検証が必要としている。

 今回、これまで音を出さない(出せない)とされていた柔らかい無脊椎動物が、瞬間的に大きな水中音を出せることを初めて示した。無脊椎動物における発音の役割やメカニズムの解明に貢献することが期待される。

論文情報:【Current Biology】Remarkably loud snaps during mouth-fighting by a sponge-dwelling worm

京都大学

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