中部大学の佐藤元泰特任教授と東北大学の木野康志准教授らは、常温付近の高密度の水素同位体の中で、素粒子の「負ミュオン」を利用して核融合を高効率で起こす新システムを発明した。この核融合で発生する中性子線を、数百万年以上も放射線を出し続ける長寿命核分裂生成物(LLFP)に当て、LLFPを放射線が出ない安定物質に変化させる。
この核融合システムは「飛行中ミュオン触媒核融合(In-Flight μCF、略称IFμCF)」理論に基づく。この核融合では、電子を負電荷の素粒子「負ミュオン」(質量が電子の約200倍)に置き換えたミュオン原子(置き換えにより約200分の1の直径になる)を用いる。
この核融合を実現するIFμCF炉の概念では、航空機用エンジンの一種「ラムジェット」を応用する。重水素と三重水素の混合ガスの超音速の気流から衝撃波をつくることにより高密度の安定な干渉領域を生成。ここを標的として、ミュオンビームを入射して核融合を起こし反応を持続させる。ミュオン生存時間100万分の2.2秒の間に、これまでの方式より多数の触媒反応を達成、毎秒10の19乗(1000京)回の核融合反応を目指す。この核融合装置内にLLFPを設置し、中性子線を当てて核変換によって放射線の発生を低くさせる。
現在、この新理論による反応炉方式を提案した特許を出願中だ。今後、ロケットや超音速飛行体の技術と結合して、コンパクトな中性子源の実用化を図り、長寿命核分裂生成物の短寿命・安定化に大きく貢献することを目指すという。また、この方式の原理の立証実験を、大強度陽子加速器施設「J-PARC」のミュオン施設を使って行う。理論実証に5年、開発期間15年、合計最短20年で初号機完成も視野に入れる。
参考:【中部大学】 長寿命核分裂生成物を短寿命化する新技術 ─質量が電子の約200倍の素粒子ミュオンを活用、20年以内の実用化目指す─