血小板輸血患者の5%程度に起こる「血小板輸血不応症」では、血小板の型(HLAクラスⅠ)が合致しないと拒絶されてしまう。日本人の約9割をカバーするには140種類のHLAクラスⅠが必要となるため、HLAクラスIの型を問わず輸血可能な“ユニバーサル”血小板製剤の開発が検討されてきた。
今回、京都大学iPS細胞研究所、千葉大学再生治療学研究センターなどの研究者らは、HLAクラスⅠの発現を欠失させたiPS血小板(HLA欠失iPS血小板)を開発することに成功した。さらに、熊本大学との共同研究を通じて、血小板輸血不応症の原因である抗HLA抗体、およびHLAクラスⅠの発現が低下した細胞を攻撃することが知られているNK細胞の何れからも、HLA欠失iPS血小板は攻撃されることなく体内を循環することを、動物モデルの生体内で実証した。
本研究者らはこれまでに、ヒトiPS細胞から血小板を生み出す巨核球を誘導することに成功し、さらに自己複製が可能かつ生体外で凍結保存も可能な不死化巨核球株(imMKCL)の作製に成功してきた。そして今回、ゲノム編集によりHLAクラスIの構成分子を欠失させたiPS細胞からimMKCLを作製することで、HLA欠失iPS血小板を製造することに成功した。
HLA欠失iPS血小板は、HLA欠失操作を行っていないiPS血小板と品質や機能が同等であることが確認されたうえ、新たに確立したヒト免疫細胞を持つマウスモデルで血小板輸血不応症を再現した状態でも、抗HLA抗体、NK細胞のどれにも影響を受けなかった。なお、iPS血小板はHLAの有無によらずNK細胞の攻撃活性を誘導しなかったといい、血小板はHLAクラスIを発現していなくてもNK細胞に攻撃されないというユニークな特性もわかった。
HLA欠失iPS血小板の臨床応用は、万人に輸血可能なiPS血小板の産業化に向けた基盤となると期待される。