名古屋大学の上川内あづさ教授らの研究チームは、メスのショウジョウバエにおいて、求愛受け入れの抑制と促進を制御する脳の神経機構を明らかにした。
メスがオスの求愛アプローチに対しすぐには交尾させない動物は多い。求愛を拒否しつつ距離を取り、配偶相手の候補を充分評価してから交尾を受け入れる。しかし、このような拒否から受容への切り替えを制御する脳の仕組みは不明だった。
研究により、キイロショウジョウバエのメスの脳において、オス由来のフェロモン情報などが集まる脳領域からPPM3神経細胞という神経細胞が信号を受けることが判明。ここからさらに、脳の中心複合体内にある「楕円体」が信号を受けており、ここがメスの交尾前行動を司るとみられた。
この楕円体内の2種の神経細胞群のうち、「拒否ニューロン」という細胞群を活性化するとメスは交尾しなくなり、抑制すると交尾を許した。もう一方の「受容ニューロン」という細胞群は、抑制性の神経伝達物質(GABA)を作って拒否ニューロンに信号を送り、拒否反応を抑える役割があった。
実際には、受容ニューロンが作る別の神経伝達物質(グルタミン酸)が、拒否ニューロンに作用して一酸化窒素の合成を促進、この気体が受容ニューロンのGABA放出を促し拒否ニューロンを抑制するという回帰機構だった。一酸化窒素は約2秒で失活するため、拒否ニューロンの活動持続により、受容ニューロンの働きを高めて交尾を促すことが分かった。
これにより、オスの求愛が何度も拒否されるため、メスの愛(交尾)の獲得には、何度フラれても求愛を継続する必要があるという。今回の成果が、ヒトを含めた脳の普遍的な仕組みの解明につながることが期待される。