筑波大学生命環境系の植田宏昭教授らの研究グループは、気候モデルを用いた数値実験の結果と観測データを照合から、東アジア域における降水量の減少は、熱帯域の海水温の影響であることを明らかにしました。
地上観察や衛星観測をもとにした降水量データを調べると、近年のアジアモンスーン域の降水量には明確な地域差(西側は降水量が多く、東アジアは降水量が少ない)があることが確認されています。長期的には、地球温暖化の進行により一般的にモンスーンに伴う降水量は増えると考えられていますが、最近十数年の傾向で確認される地域差の要因は明らかになっていませんでした。
本研究では、観測された海面水温分布を仮定し、大気大循環モデルを用いた数値計算を行うことで、近年の降水量分布の地域差を再現することに成功しました。さらに、熱帯太平洋・熱帯インド洋・熱帯大西洋と地域ごとに分割して海面水温を設定し実験したところ、熱帯西部太平洋の温かい海水が東アジアの降水量を減らしていることが分かりました。熱帯西部太平洋の海面水温が高いと、フィリピン付近の対流活動が活発になり、大気中に多くの凝結熱が放出されます。この熱の働きにより、東西だけでなく南北方向にも大気の流れが生じ、その結果日本付近で気圧が上がり、東アジア域の降水量が弱まるというメカニズムです。本研究によって、熱帯の海洋が、従来知られていたよりも広い範囲の気候に影響していることが明らかになりました。
このように気候変動のメカニズムが明らかになっていくことで、季節を通した降水量だけでなく、豪雨や干ばつなどの異常気象がどのような条件下で起こりやすいかをより高い精度で予測できるようになることが期待されています。