名古屋大学の研究グループは、メダカを用いた研究で、細胞が卵を作りだす分子経路を明らかにすることに成功した。
生殖細胞は、精子と卵のどちらにもなりうる能力をもつことが知られている。オスは精子、メスは卵を作るために、生殖細胞は身体の性に応じて精子になるか卵になるかを決定している。
本研究グループはこれまでに、メスのメダカにおける「性のスイッチ遺伝子」(卵になることを決める遺伝子)foxl3を同定した。しかし、“卵になることを決める仕組み”と“卵を作り出す仕組み”がどのようにつながっているのかはまだわかっていなかった。
今回の研究では、foxl3の下で2つの実働因子(rec8aとfbxo47)が働くことで、生殖細胞の卵への分化が誘導されることが明らかとなった。細胞が卵になるためには、細胞を大きくする、遺伝子量を普通の細胞の半分にするなど、卵としての特徴を備える必要があるが、fbxo47とrec8aが、これらの卵の特徴をそれぞれ作り出しているという。
また、この卵を作り出す仕組みを壊すと、精子ができることも判明した。つまり、卵を作るためには「精子になることを抑え続ける」必要があることを意味する。裏を返せば、生殖細胞はひとたび卵になろうとしても、状況によっては精子にもなれるという“精子になる潜在能力”を保持していることが示され、生殖細胞のもつ性の柔軟性が見えてきた。
本研究により、メスの生殖細胞が卵になると決めた後で働きだす遺伝子の存在が見出され、性のスイッチと卵を作る仕組みが分子レベルで初めて連結された。卵や精子を形成する経路の全容解明に近づくことができれば、畜産・水産業において家畜や養殖魚の繁殖効率を上昇させたり、生殖医療技術の改善への貢献が期待できる。