脳内でさまざまな空間情報が海馬から海馬台を経て下流の4箇所の脳領域へと分配される一連の流れを、大阪市立大学のグループが世界で初めて明らかにした。

 動物の生存にとって重要な空間認識に関わる情報(例えば自分の場所、移動スピード、道順など)は、脳内の海馬で処理され、隣接した海馬台という脳領域を経てその後さまざまな下流の脳領域群へ伝わると考えられている。しかしこれまで、海馬の持つ情報が具体的にどのようにして分配・伝達されるかについてはわかっていなかった。

 この情報伝達様式を明らかにするため、本研究では、256個の多点電極を用いて神経細胞の活動を記録する大規模電気生理計測と、光により神経活動を引き起こす光遺伝学の手法を組み合わせることで、ラットの海馬台の神経細胞活動を一斉に計測しながら、これらの神経細胞の情報の伝達先を網羅的に解析した。その結果、海馬台が海馬に比べてノイズに強い頑強な情報表現を持つこと、「移動スピード」と「道順」の情報がそれぞれ帯状皮質と側坐核の脳領域に選択的に伝達される一方、「場所」の情報は側坐核・視床・乳頭体・帯状皮質の4領域に均等に分配されることが明らかとなった。このことは、海馬台が情報の種類と標的脳領域に応じて、情報を分配・伝達するのに重要な役割を果たしていることを意味している。

 海馬は、空間情報だけでなく記憶形成や学習にも深く関係する脳領域として知られ、その機能低下は認知症の要因ともなりうる。海馬から下流の脳領域へ情報が伝達される様子を明らかにした本研究成果は、海馬を中心とした記憶・学習システムの動作原理解明や、海馬の機能異常が原因で起きる疾病の解明にもつながることが期待される。

論文情報:【Science Advances】Robust information routing by dorsal subiculum neurons

大学ジャーナルオンライン編集部

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