奈良女子大学の三藤清香氏(博士後期課程1年)と遊佐陽一教授は、ウミウシの仲間2種に大規模な自切・再生現象を発見した。これらのウミウシは、心臓を含む首元より後方の体(全重量の80%以上)を自切した後、頭側からほとんど元通りに全身を再生した。
自切は尾や脚などの体の末端部分を自発的に切り落とす現象で、自切後は再生する場合が多い。分裂した体の両方が完全に再生する動物もいるが、複雑な体制をもつ動物が心臓を含む体部を完全に失っても生存し再生する例は知られていなかった。
ウミウシは、餌の海藻の葉緑体を体細胞に取り込んで光合成に用いる珍しい動物だ。今回、室内維持のコノハミドリガイ15個体中5個体と、野外採集したコノハミドリガイの別種1個体が首元で自切した。切り離された体部は刺激に反応し心臓も動いていたが再生はせず、比較的若い個体の頭部は活発に動き回って摂餌し、1週間程度で心臓を含む体部の再生を始め、約3週間でほぼ完全に再生した。
同様の自切・再生を、カイアシ類(コペポーダ)の一種に寄生されたクロミドリガイ82個体中3個体でも観察。カイアシ類はウミウシの体に入り込んで産卵を抑制するが、自切したクロミドリガイはこのカイアシ類を完全に排出し、1週間程度で心臓の再生を開始した。寄生されていない64個体は自切しなかった。
研究者らは、このような自切は長時間かかるため捕食回避ではなく産卵を抑制する寄生者の排除が目的ではないかとし、頭部のみから再生可能なのは光合成能力が関係していると推測する。今後、自切・再生能力の研究を進めることで、将来的には再生医療や動物による光合成の分野にも貢献可能としている。
論文情報:【Current Biology】Extreme autotomy and whole-body regeneration in photosynthetic sea slugs