筑波大学の工藤崇准教授、高橋智教授らの研究グループは、人工重力環境では、宇宙の微小重力環境で生じる筋重量の減少と筋線維タイプや遺伝子発現の変化が抑制されることを世界で初めて明らかにした。加齢などによる筋萎縮を防ぐ方策の開発につながることが期待される。
人間は加齢によりさまざまな機能が低下する。なかでも加齢に伴う筋力低下はサルコペニアと呼ばれ、筋萎縮、筋線維サイズの減少、筋線維タイプの構成変化が発生する。これは宇宙環境下で人体に生じる変化と類似するが、そのメカニズムの解明は十分ではない。研究グループは、宇宙の微小重力環境で最も影響を受ける組織の一つである骨格筋に注目し、重力と骨格筋との関係の解明に取り組んだ。
今回の研究では、2016年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小動物飼育装置を利用。この装置は厳密な飼育管理が可能で、遠心装置を用いて人工重力を負荷させることができる。国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」実験棟で、宇宙の微小重力環境と人工重力環境(1G)において約1ヶ月間マウスの長期飼育を実施し、ヒラメ筋の変化を分析した。
その結果、人工重力環境では、微小重力環境で生じる筋重量の減少と筋線維タイプや遺伝子発現の変化が抑制されていた。さらに、これまで知られていなかった、筋萎縮に関わる新しい遺伝子(Cacng1)も発見。このCacng1遺伝子を培養細胞とマウス骨格筋に発現させたところ筋萎縮を誘発した。
今回の研究成果は、月や火星などにおける長期の有人宇宙探査に向けた基礎データとなるだけでなく、寝たきりなどの地上で見られる筋萎縮のメカニズムの一端を明らかにする鍵となる可能性があるとしている。